Aセクシャルとエロい人
Aセクシャルというのは、人生ずっと性欲が無かった人の事を言うのであって、自分みたいに途中から興味が無くなった、という人に対しては言わないらしい。
なぜ途中からなのかは、一つには子宮体癌という病気になって、子宮・卵巣を摘出して、自分の体内で作られる女性ホルモンが無くなり、かつ、昔、男性ホルモンを摂取していた時期もあったが、その頃にはすっかり止めていたので、男性ホルモンも女性ホルモンも今は体内に無い状態であるからだ。
もう一つは、体重が増加したので、もう誰にも自分の裸は見せたくないので、そういう事をやる気が起きないから。
性欲が無くなってみて分かったのは、性欲に振り回されずに済む、という利点もあるが、欠点といえば、コミュニケーションツールの一つが無くなった訳である。
元々、私は酒が飲めないので、それだけでも他人よりコミュニケーションツールが一つ足りない状態だった訳だが、さらにまた減ってしまったのである。
たまに、エロい出会いのネタでブログを書いている人もいるが、確かに本人にとっても、退屈はしないだろうな、と思う。
話がちょっと飛ぶが、昔、まだ10代の頃、「君は子供顔からおばさん顔に直接なるタイプだね」と言われて、その事が気に入らなくて、延々その相手に文句を言い続けた事があった。
図星だった事もあるが、それは単に顔の造形のみならず、私の子供の頃からの特殊なコンプレックスというのが積りに積もっていたからだった。
地味顔の自分、星占いでも安定していて冒険はしないタイプと言われ、親からは派手な事につながりそうな習い事は一切させてもらえず、という自分の望まない自己像しか手に入らない人生を如実に言い当てられた気がしたからである。
そう、子供の頃の私はスリルが欲しかったのである。
ひたすらそれを、悲しい位に切望していた。
だが、常に実年齢よりも下に見える私の若き日は、全くスリルなど手に入らなかった。
スリルを求めて出会ったはずなのに、出会う相手はことごとく束縛、過干渉というタイプになった。
私は20歳の頃、小学生に間違えられたりしていた。
だが、ようやっと40歳の時に、20歳に間違えられるようになった。
私は、いよいよおばさん顔になる寸前の所で、SMバー、ハプニングバーなどで働いてみたりした。
まぁ、それなりに面白かった。
わかったのは、自分はSでもMでもない、という事だった。
で、すでにおばさん顔になってしまった自分が振り返って思うには、馬鹿げているかもしれないけれど、後悔はしていないのだった。
今はそんなこんなでエロはもう飽きたが、おばさん顔になって体重も増える前に飽きる事が出来て、本当にラッキーだったと思う。でなければ悲惨だ。
ところで、出会いを人生の主要な娯楽にしている人達は、もし、ある時突然性欲が無くなったらどうするのだろう、と思ったりする。
たぶん、別の楽しみを見つけるのだろうけど。
今の私だったら、たぶんもう「子供顔からおばさん顔に直接なったタイプ」と言われても、怒らないだろう。
朝起きた時
「友達の家に泊まった時とか、朝起きた時にどこにいるのか分からなくてアセる事あるよね」と仕事場の人達が話していた。
そういえば、私は、朝起きたての時、軽い記憶喪失みたいになる事があって、それは本当に0.何秒位の短い間なのであるが、今がいつだかわからない、すごい時は自分が今何歳で、この世界の中でどういう存在なのか(つまり、ここはどこ?私は誰?状態)わからなくなる、というのが度々あった。
でも、アセらない事が多い。
どちらかというと、夢の中で、今がいつで自分が何者なのか関係なくただ存在している、という状態の方が居心地が良くて、目が覚めて記憶が戻ってくるまでの0.何秒間かの間、ああ、また窮屈な状態に連れ戻されるんだ、という感じが、深い悲しみと共にやって来るのだ。
最近は、ゆるい職場にいられるせいか、自分の存在にそんなに悲壮的にならずに済むので、あまりそういう状態にはなってないが。
こういう事を言うと逃げだと言われるのかもしれないが、自分というものを取り巻く属性~ルックスだとか年齢、性別だとかは、基本、自分の内面とは関係なく自分を縛るものでしかないと感じている。
私は、死ぬとき苦しい死に方は嫌だなという恐れはかなり持っているが、死ぬ事そのものに対してはあまり恐れがないのは、夢の中でそういう、属性から自由になって、ただ存在して色んな出来事を全て俯瞰し、感じている、という状態を味わった事が、幾度もあるからだと思う。
ただ、本当の死というものが、そういう状態であるという保証はどこにもなく、そういう夢が見れるのも生きている証拠で、死んだら意識も何も無くなるのかもしれないが、それでも漠然と、そういう時の夢心地の状態が死なんじゃないかと、根拠もなく思っていたりする。
そして、もし、私が、自分のルックスも人生も望み通りだったら、果たしてそういう夢を見るのかどうかも、興味深い所でもある。
近況
近所のお年寄りの介護、おむつとか衣服の着せ替え、洗濯は完全にヘルパーさんがやってくれる事になり、すごく楽。
私の役目は、お弁当と、その都度必要な生活用品を買ってくるだけになった。
で、つくづくヘルパーさんのお仕事は大変だなと思う。
全体的に介護職が賃上げされれば良いと思う。
お弁当を買ってきて、TVを見ながら一緒に食べるのが日課になっている。
で、そのお年寄りは、感情労働的には、全くしんどい所の無い人である。
延々愚痴を言うとか、上から目線の説教をするとか、そういう事のない方だ。
自分の母親のように、ニュースとか見ると必ず意見が反対なので、一緒にいると妙な緊張感がある、というのもない。
だから、極めて楽なはずなのだが、基本、私は一人でいるのに慣れているせいか、毎日というのが、ちょっと疲れてもきている。
これが、週2~3日のペースだったら楽なのにな。
介護認定が今日降りたので、これからは宅配弁当も割引で頼める。
しかし、その方はいわゆるお年寄り向けの宅配弁当、味付けも薄くて野菜が多くあっさりしたのがあまり好みではないらしい。
しかし、毎食スーパーの弁当とパン(これもあっさりしたパンを買って来るといつまでも食べず、菓子パンや総菜パンなどが好み)では、身体に良くないので、朝はパン、昼は宅配弁当、夜はスーパーの弁当にしたらどうかと、以前から私が提案していた。
好みでないのに、昼も夜もだとさすがに可哀そうだ。
買って来る弁当が夜の分だけなら、2、3個買って来れば週2、3回顔を出せば足りる。
その方は、毎日家にいてTVを見るしかないので、私が来ると「もうちょっと見てったら」と引き留めようとする。
ヘルパーさんは忙しいので引き留められない、というのはわかっているようだ。
この状況で、私が来る日が減ったら、きっとさびしいんだろうな、と思う。
まだ今より歩ける状況だった頃(転んでから数センチづつしか歩けなくなったらしい)、行きつけのファミレス(おじいちゃん仲間がたむろする)があったり、スーパーのレジの人とも仲良しだったり、顔見知りのマスターのいるコーヒー屋に行ってたりしたそうだが、今は家から出なくなってそういう交流が無い。
車椅子に抵抗の無い方だったら、コーヒー屋位は顔を見せに行けるのだが、どうしても近所の人に車椅子姿を見られるのは嫌だと言う。
まぁ、これからデイケアとか通えるようになって、顔見知りの人が出来たらいいのかもしれない。
占い
信じてないのに、つい暇な時に見てしまう、星占いとか血液型占い。
無料のしか見ないけど。
当たりそうで当らない所がなんとも言えない。
血液型はO型なのだが、マイペースは非常に当っているが、性格から血液を当ててみましょうとかでは、B型>A型>AB型(?)>O型みたいな感じになる。
星座は牡牛になるのだが、子供の頃図工が得意科目で、今音楽に関する事をやっている辺り当たりそうな予感がするのだが、味覚も発達していて~はかなり怪しい。
グルメ。食い意地が張っているという点は確かに当っている。
しかし、それゆえに、食えさえすれば何でも美味しいと思うタイプのようで、私はどんな料理でも、不味いと思った事がないのだ。
それ故か、今まで手料理を振る舞った友人と言うのは、ことごとく、一口食べて、一瞬妙な顔をし、我慢大会のように無言で最後まで食べ続けるか、話に夢中になっている振りをしてほとんど残して帰るか、そのどちらかのパターンである。
そして、一番当らないのが恋愛。
一途で束縛が激しいというが、束縛するのもされるのも嫌い。
基本、皆がOKなら、乱婚制でいいと思っている。
それでいて、恋人がいないならいないで、何年いなくても一向に構わない。
束縛してくる恋人だったらいない方が良い。
考えが保守的だというのもねぇ。
今回は政治の事は言わないでおこう。
(というのは、私は安倍政権は保守とは思わないので、保守≒自民党という前提では、話がややこしくなるから)
単純に、生き方、恋愛観とかで考えると、保守的な意見というのと大抵合わない。
ちなみに、シド・ヴィシャスは牡牛座である。
やっぱ当んないよねぇ。
自分がシドに似てるとも思わないが…。
20代の頃。
かの有名な壺を売りつける宗教の勧誘に合った事がある。
「無料で手相を見てあげましょう」←ちなみに、これがこんなに有名になって、何十年たった今も、同じ手を使っているのだ。
ちなみに、最初の手相では良い事ばかりを言う。
そして、「私達は、色んな占いを研究しているサークルです。良かったら、他の占いもやっているので、遊びにきませんか?」
その言葉に興味本位でついて行ったら、変な事をどんどん言われて、壺とか印鑑とか、色んなカタログを出してきて、しまいには「浄財」の説明をされた。
「仏に帰依すると言うのは、心も体も財産も、すべて投げ打って仏に仕える事です。浄財と言うのは、お金だけと思われるかもしれませんが、お金というのは、あなたの心や体を使って稼いだもの、だから、財産を寄付するというのは、仏に帰依するのと同じ効用があるのです」
その人が言ってきた変な事というのは、縁遠いとか子宝に恵まれず、このままでは家系が途絶えるとか、私にとってはどうでもいい事ばかりだった。
だから、「まぁ、信じてないけど暇つぶしで来ただけですから」と正直に言うと
「あなたは、そのままでは地獄に落ちますよ!」と怒り狂った。
こんな詐欺師みたいな人達ばっかいるのが天国なんだったら、地獄行った方がましだわwと思い、笑って帰った。
全ての占い師をディスるつもりはないが、そもそも、恋愛とか、異性愛前提しかなかったりするのが、やっぱ当らないよなぁ、と思ってしまう。
介護、認知症に関して思う事②
ここ数日のアクセス数の多さに驚いている。
前回の日記は、だらだらと書いていて、特に面白いという訳でもないと思うが、やはり介護というテーマには、関心のある方がそれだけ多いという事だろう。
で、前回の続きであるが、結果から言うと、そのご老人は通院の日までにお風呂に入れなかった。
デイケアは、まだ介護認定が下りていないし、自宅のお風呂は風呂釜が高く、その方一人で入るのは危険だったが、相談センターの方々が待機しつつ、まずはその方一人で入ってもらい、何かあったらすぐケアできるように待っている、という事になった。
他人しかも異性に入浴介助をされるのは恥ずかしいのか、その方はなんかかんか言い訳をして、お風呂に入りたがらなかったからだ。
通院の前日、私が仕事場から休み時間に電話すると、延々
「入ってください」
「いや、まだ先でいいよ」
と、やりとりしていたらしい。
「今日入らなければタクシーが使えません。介護タクシーでさえそうなんだから、一般のタクシーなんて乗車拒否されてしまいます。」と、私が泣き事のように言うと、専門員の方は
「わかりました。もう一度説得してみます」
と、言ってくれた。
ところが、やっと説得できて、いざお湯を沸かそうとすると、風呂釜が壊れていて、ごくぬるいお湯にしかならなかったそうだ。
で、この冬場にこれでは風邪を引いてしまうという事で、足だけ洗ってもらったそうだ。
故障している風呂釜。つまり、よほど暑い時期以外は、何カ月も風呂に入っていなかった、という事になる。
私はいよいよ7時に一緒に出て、4時間かけて同行しなくてはならないかも、と半ば覚悟を決めた。
この日は、私は休みを取って付き添う事になった。
今まで一人で行ってたんだし…とも思うが、あの歩きを見たら、とても4時間の道のりを一人で歩かせるなんてできない。
その日の帰り、格安店で靴とトレパンを買い、薬局で専門員さんが言っていたおむつを買った。
帰りにセンターに電話すると、当日の朝、専門員さんが着替えは手伝ってくれる事になった。
彼女は他の仕事が入っていて同行はできないが、病院に着いたら、センターの職員さん二人が私達と落ち合って、お医者さんに、介護認定の同意書を書いて欲しいと頼んでくれるそうだ。
いやぁ、どんなに心強かったか。
着替えを私一人でやらなければならない(特におむつ)とか、お医者さんに同意書を頼むのも、説明下手な私が言って伝わるのか、とても不安だったからだ。
当日の朝行くと、もうその方は自分で下着も替え、出かける用の服を着て待っていた。
(あれ、着替えられるの?じゃぁ、あの何カ月も着替えてないようなズボン下はなんだったのか?)
ともあれ、一見この井手達ならタクシーも問題なく乗れるかも、と思えたが
「申し訳ないですが、もう一度脱いでおむつをつけて下さい」と専門員さんが言った。
その方は、やはりおむつには抵抗があるのか、言い方は穏やかながら、なんかかんか言って断ろうとした。
「もし座席を汚してしまったら、大変な額を請求されてしまいます」
なんとか説得した。
私は、その方が
「だったらタクシーに乗らずに歩いて行く」と言い出さないかヒヤヒヤした。
一見小奇麗な格好をしていたが、やはりジーンズが匂ったので、買ってきたトレパンに着替えてもらった。ズボン下も替えた。
「あそこの病院では、トレパンで来る人なんかいないんで」
その方は言ったが、匂うジーンズよりはトレパンの方がマシである。
その方なりに身なりに気を使っているのだが、自分が尿を漏らしている自覚が無いのか、濡れていたり、匂いには無頓着だったりするのが不思議といえば不思議であった。
専門員さんは、汚れた服をまとめて洗濯機に入れ、湯沸かし器からやかんとたらいに交互にお湯を入れ、洗濯機に注いでいった。
今回は一般のタクシーを呼んだ。
運転手は始終無愛想だった。
何よりもヒーターをつけてくれない。
私は暑がりだからいいのだが、お年寄りには寒いんじゃないかと気がかりだった。
しかし、ヒーターをつけてくれと言えなかったのだ。
服は着替えたものの、お風呂に入っていないので、やはり匂うのかもしれない。
むやみにヒーターを、と言って、「つけると匂いが充満するので」とか言って揉めたり、最悪降ろされたりしたら…と思うと強気に出れなかった。
病院に着くと、職員さん二人を探した。
お年寄りは、いつもより血圧の数値が高いと言って何度も測り直していた。
後で知ったのだが、寒い所にいると血圧が上がるのだそうだ。
職員さんがお医者さんに話してくれ、同意書はすんなり書いてくれる事になった。
帰りのタクシーは病院の敷地で拾え、運転手さんもいい人だった。
その後、その方は最初はおむつを嫌がっていたが、徐々に家でもつけていてくれるようになった。
私も、最初汚れたズボン下を見た時、また、病院から帰って二日後には再びトレパンがビシャビシャになっているのを見た時にはドン引きしたが、今ではおむつの替えを手伝うようにまでなった。
嫌がるのをおむつをつけるように説得し、足が悪くて着替えもしんどいのに、無理を言って着替えさせる、これには、自分のやっている事はいらんおせっかいなのかなぁと思う事もあった。
もとより、ごく幼い幼児とボケてしまったお年寄りは、排せつ物への抵抗感が少ない。
排せつ物とは同居できないある一定から一定の年齢の大多数とは、世界観が違うのだと思う。
同居している幼児や老人が家の中で排せつ物を垂れ流していたら、困るのは同居人だからおむつというものもある訳だが、私は同居人ではないし、家の中をどう汚そうと、その方の勝手と言えば勝手である。
しかし、大多数の人間の汚れと匂いに対する嫌悪感を思うと、やはり皆で清潔にさせるしかないのかな、とも思う。
最近わかったのだが、今まで、その方は部分的にボケていて(話はしっかりしていて、とても認知症とは思えないのだが)おもらしをしている自覚が無いんじゃないか、と思っていたが、ここ数日はおむつが濡れていないのにズボンがびっしょりの事も多く、どうやらちゃんとトイレでしているが、足が悪くまっすぐ立てないので中腰のまま用を足す、それでズボンにかかってしまうらしい。
いや、座っていた場所がぐっしょり濡れていた事もあるので、やはり失禁もあると思う。
それまでは一日おき、年が明けてからは毎日顔を出しているが、もう毎日着替えさせて、前の洗濯物が乾いたらすぐまた洗濯しないと、という状態である。
自分の部屋さえろくに片付けられない私が、よくここまで他人の面倒が見れたな、と思うが、これもひとえに、その方の性格がとても良いからだと思う。
病院の中でも、車椅子を娘か嫁さんに押してもらっているのに、あごでこき使うみたいな物言いをする人を見かけたが、私はあんなのはとても無理だと思う。
ましてや、同居していないから、時々除菌スプレーでシュッシュするだけだけど、自分も生活する部屋で、始終絨毯がおしっこでびっちょりになっていたら、本当に泣きが入るだろう。
それに、私は弁当を買ってくるだけだが、料理もしなければならない、とかだったら…。
介護は嫁の仕事、と言い切るような政治家を居すわらせてはならないと思う。
子育て・介護は社会全体の仕事、と考えてくれる政治家に一票を投じたいものだ。
介護、認知症に関して思う事①
この事は、ここに書くべきか書くまいか、迷っていたのだけれど、やはり、認知症の人に対しては家族や近所だけでなく、社会全体の仕事としてケアできる体制作りが重要である、と切に思ったので、少しでも知ってもらう為に書くことにした。
ここ最近、訳あって近所の足の悪いお年寄りの買い物代行や病院の付き添いなどしていた。
話していると、とてもしっかりしているし、とても良いおじいちゃんだ。
お弁当やみかんを買いに行けば、「お姉さんの分も一つ買ってきて」「寒いのに悪いねぇ」と気遣ってくれる。
その方の事は、以前何度か見かけた事があった。
本当に、すごくゆっくりとしか歩けなくて、「こんな状態なのに、自分で買い物とか行かなければならないのか。気の毒に。」と思っていた。
ある夜、その方が、重そうな荷物を持って、というより、荷物を数センチ前の地面に置く、そして、もう片方の手で杖をつきながら、片足、もう片足を数センチずつ(誇張ではなく、本当に)ゆっくり前に出しては、また荷物を数センチ前に、という具合に歩いていた。
私は見かねて、「良かったら、お荷物を運びましょうか?」と声をかけた。
その方は、最初遠慮していたが、おずおずと「いいんですか。」と言った。
私は、荷物を自転車の前かごに乗せると、その方の歩調に合わせて自転車を押した。
荷物はごく軽いものだった。
だが、歩調を合わせるのが本当に大変だった。
自分ではごくゆっくり歩いているつもりでも、ちょっと油断すると離れてしまう。
その方の自宅に着くまで(偶然、私のアパートのすぐ側だった)、チャリで往復5分と掛からない所を、本当に誇張ではなく小一時間もかかった。
自宅が一軒家だったのが、意外でもあり、救いに感じられた。
着くまでは、すごく狭くてボロいアパート住まいだろうと思っていたのだ。
私は、その方の合意を得て、昔番号を教えてくれた民生委員の方に電話した。
電話番号を教えてくれたのはずいぶん前だったが、つながって、その方の地区(私のアパートも同じエリアだと思うが)の民生委員を紹介してくれた。
民生委員の方は、さっそく次の日に来てくれた。
さっそく、介護認定を申請しましょうという話になり、認定が下りるまで2~3ヵ月かかるから、それまでの間、私が買い物を代行してもいいと申し出た。
この時までは、足が悪いだけで、他には何の問題も無いと思っていた。
民生の方が、「他に何か困っている事はありますか?」と言うと、
「申し訳ないんですが、足の爪が伸びて、それもあってますます歩きづらいんで、切ってもらえますか?」
と、靴下を脱いだ。
その方の足の爪は、爪の病気で、とても分厚くなっていた。
今は亡き父が、片方の親指だけであるが、同じ病気だった。
爪の付け根に水虫の菌が入って、爪が分厚く変形する病気だ。
それが、両足の全ての爪がその状態で、かなり伸びていて、足の皮も何層も剥けた状態になっていた。
「これ、爪の病気ですよ。この厚さじゃ爪切りは入らないし…」
「昔、病院からもらったペンチがどこかにあるんで…」
「私が下手にペンチで切って、傷とかになっても…」
それも本音だったが、正直、移るのが怖かった。
「これは、皮膚科で診てもらった方がいい。素人が切らない方がいい。」
そう民生の方が言ってくれたので、正直ホッとした。
で、近々、近所の皮膚科に行く事になった。
その後、民生の方が介護支援専門員の方に連絡してくれた。
専門員の方が言うには、以前何度か見かけた事があって、車椅子の話もしたそうなのだが、その時は、まだ大丈夫、とか、この杖が気に入ってるから、とか言って支援を断ったそうなのだ。
「車椅子で出る所を近所の人に見られたくない」と、その方は言う。
皮膚科と、そのすぐ後に行く事になっている別の病院も、車椅子だったら介助できると思っていたが、それをどうしても使いたくないとなるとやっかいだ。
あの近所のスーパーでさえ、小一時間もかかったのに、歩調を合わせて病院まで行くと思うと気が遠くなった。
聞けば、その方は、月一の通院を、今まで、朝の7時に家を出て、11時の診察の為に4時間かかって行っていたらしい。
結局、病院へはタクシーで行く事になった。
前からかかっている病院はともかく、皮膚科はワンメーターちょっと位の所なので、わざわざタクシーを呼んで、そんなちょっとだと嫌な顔をされるんじゃという懸念があった。
帰りもしかりである。
なので、介護タクシーを手配して、帰りも電話したらすぐ来てくれるようにした。
介護を売りにしている位なら、そうした事情にも理解を示してくれるだろうと思ったのである。
私自身が通院で仕事の休みを取っている日に、私が病院から帰って来次第、皮膚科へ同行する事になった。
そして、その当日。
ズボンを履き替えるからと、私が台所に席を外していたが、なかなか出て来ないので、
「お手伝いが必要ですか?」
と声をかけ、ふすまを開けると、ジーンズを左右逆に足を入れて苦戦している所だった。
だが、その事よりも、私はズボン下を初めて見て愕然とした。
行く筋もおもらししたような跡、それが乾いて茶色い縞模様みたいになっていた。
「あの、下着がかなり汚れていますけど、履き替えますか?」
「でももう、タクシーを呼んでしまったから、すぐ来るでしょ?」
こんな事なら着替えてから呼ぶべきだった。もう時間が無い。
仕方なくそのままジーンズを履かせた。
手が触れると、ズボン下も靴下もぐっしょり濡れていた。
私は、悪いが、履かせ終わった後でこっそり手を洗った。
皮膚科の待合室で待っている間、私は、その方にここで待っていて下さいね、ちょっと電話してきます、と言い、外に出た。
支援専門員の方に事情を説明し、もう何カ月も下着を取り換えていない様子だった事を話した。
待合室に戻ると、ヤンキーっぽい女が露骨に嫌そうな顔をして、その方を見ていた。
私は、鼻炎持ちでやや鼻づまり気味の事の方が多い。
だから、今まで気が付かなかったのだが、実際かなり匂うらしい。
かなり混んでいたが、やっと呼ばれた。
皮膚科の女医さんと看護師さんは、努めて冷静に、爪をペンチでパチン、パチンと切って行った。
帰りは、薬局で塗り薬をもらって帰った。
介護タクシーの運転手さんは、とても親切に接してくれていたが、帰り、その方を先に家の中に入れてから、私に言った。
「率直なお話、あの匂いは困ります。他の方も乗せるので。別の日にまた違う病院に行かれるというお話でしたが、匂いは何とかしてくれないと、私も引き受けられないし、他の仲間も紹介はできませんから」
介護支援専門員の方は、
「別の病院へ行く日までに、なんとかお風呂に入れて着替えさせます」
と、言ってくれた。
(次回に続く)
未練なのか?
今朝、お互い通勤途中で、以前付き合っていたSちゃんとばったり会った。
付き合っていた、というのが、普通の人が想像する付き合いとはちょっと違っていたかもしれない。
なにしろ、向こうはMTF(身体は♂、心は♀)寄りのMTX(身体は♂だが心は中性)で、私はFTX(身体は♀、心は中性)だ。
Hは一回も無かった。
お互い、身体に違和感のある同志のカップルはけっこう世の中にはいて、それでも、付き合っていたらH位あるのは普通だったりする。
が、Sちゃんは、可愛いけど、手を出したらとんでもない事になるんじゃないかと、私の方が思っていたので、ずっと何も無かった。
待ち合わせに2時間も遅れて来たり、弟が借金をしていると言って(それは問い詰めると限りなく嘘くさい話だった)お金をだまし取ろうとしてきたり、私の家に転がり込む事になっても、家賃は私の方からいいよと言ったのだが、食費すら払おうとしないわで、私はSちゃんの事を、正直言って信用できなかった。
何を考えているのかよく分からなかったが、たぶん、Sちゃんは、自分は心は女なんだから、パートナーに養ってもらって当然とでも思っているのかな、という感じがした。
私は全く社会に適応できない底辺なので、悪いが、養う事はできないし、なんだか、騙されそうな感じもしていたので、手を出さなかったのだ。
が、Sちゃんが不思議なのは、そういう、相手を騙したり振り回したりする人がしそうな派手でお金をもらえそうな仕事や、楽に稼げそうな仕事には見向きもせず、地味でコツコツ系の仕事や、肉体労働系の仕事にばかり就くところだ。
私は、Sちゃんには何度も騙されかかったり裏切られたり試されたりしたのだが、この点で、今でもやっぱり彼女(身体は♂でも、心は彼女寄りなので)をそんなに悪く思えないでいる。
典型的な小悪魔、というより、清純可憐なイメージにさえ見えてしまう。
だが、近づくと、やっぱり何を考えてるのか分からない人なのである。
男の子の格好をしていると、本当に普通の男の子だが、女装すればパス度は決して低くないし、それなりに綺麗だった。
なんで、ニューハーフとして働かないのか不思議だった。
以前、彼女はブラックな運送屋に入ってしまい、社長から多額の賠償金を脅された事がある。
その時、私は労働基準監督署に連れて行った。
ありのままを話すと、明らかにあっちが違法なので、賠償金に関しては事なきを得たが、ただ働きした分の給与は、貰えなかった。
その月の生活費に困らないかと聞くと、「3万円貸してくれれば大丈夫」というので貸した。
次の仕事をどうしようかという話になって、「やっぱ水商売しかないのかなぁ」と嫌そうに言った。
水商売に悪いイメージがあるのか、元々騒がしいのが好きでないから向いていないのか、とにかくそういう方面には行きたくないらしかった。
一つには、性指向が純男さん(自分が♂である事に違和感のない♂)ではなかったからかもしれない。
過去の恋バナで出て来るのはFTMだったりするので、予測だが、身体的には相手の身体が完全な♂型であるより、不完全な♂、もしくは♀型である方が好ましいとか嫌悪感が少ないのかもしれない。
でも、純女さん(♀である事に違和感のない♀)とは恋愛できない、と言っていたので、自分に男役を求められるのは無理だったのだろう。
そうだとすると、みごとに私の逆パターンなので、基本的に相性は悪くなかったと言える。
だが、彼女の変な行動には本当に辟易していた。
付き合い始めの頃は、極端に約束の時刻を遅れて来りしていた。
私は、自分が子供の頃遅刻常習犯だった事もあり、どうやっても遅れてしまう人には寛大だ。
ちなみに、私は今では遅刻をしないように、早めに準備して早めに家を出るので、職場でも「早く来過ぎ」、待ち合わせの人にも「なんでそんなに早いんですか?」と言われる。
ぴったりの時間に行こうとすると、必ず忘れ物で戻ったり、急にトイレに行きたくなったりしてしまうので、すごく早く来ざるを得ないのである。
彼女もきっと、そうなんだろうと思って、一時間でも二時間でもボケーっと待っていた。
そのうち、待っていても苦痛でない方法を編み出した。
あらかじめ、待ち合わせを漫画喫茶のある所にするのだ。
これなら、何時間でも苦にならない。
彼女は、そうしたら、今度は時間通りに来るようになった。
私を試していたのか?
それとも、ドMで、怒られるのを期待していたのか?
弟が借金をしていて、だから返済のために金をくれと言い出した時も、なんだか腑に落ちなかった。
彼女自身が困っていて、というのなら出していたかもしれない。
だが、この話には前振りがあるのだ。
その数か月前、彼女の方から「旅行に行きたいね」と言い、そのうち、何度か行ったタイ料理の店で、「昔タイに行って良かったよ」「いいね、タイに行きたい!」という話になり、でもお金の面で、私はちょっときついな~と思っていた。
で、調べてみると、以前私が行った時代とは違い、今は燃料サージャージというものもかかり、格安で見積もっても十数万円は掛かりそうだった。
彼女にその話をして、そんなに掛かるんだったら、あきらめようという話になるかと思いきや、「その位だったらなんとかなる」と言うので、私は格安の旅行店を探し、どことどこへ行って、と彼女の希望を取り入れ、プランを練った。
そうして、いよいよ二人とも戸籍抄本を取り寄せ、一緒にパスポートを取りに行こうという段になって、弟の借金の話が出た。
毎月5万づつ返済していて、今までは彼女が立て替えていたが、もう払えない、あと2カ月で返済し終わるので、最後の2カ月分を私が払ってくれないか、と言うのだ。
私は、なんか信じられなかった。
弟が多額の借金をしていて、彼女が立て替えていたのだったら、そもそも旅行へ行きたいなどと言うだろうか?その時点で彼女の生活も苦しいはずである。
しかも、あと2カ月で完済するという額が、ちょうどタイ旅行一人分に掛かる費用と同じ。
どうしても、私がその位だったら出せる、と思ってその話をしてきた感が拭えなかった。
私は「とにかく弟さんと話したい」「今は過払い金請求というのもできるから、そういう所に一緒に行くとかを相談したいから」と言うと、彼女はがっかりしたように「やっぱそういう方へ行くのか~」と言った。
なんなんだろう、本当に困っているなら何らかの解決策が出れば嬉しいはずなのに。
私が、ぽんと金を出すのを期待していたかのような。
私は、とにかく弟さんと話をしたいから連絡先を教えろと言い張った。
そうしたら、電話を切ってしまい、こちらから何度連絡しても拒否られた。
こんな訳でしばらく音信不通になった。
私は、この件についても不思議に思っていた。
もっと悪質にだまし取ろうというのが目的だったら、あらかじめ弟役の人も用意しておくかもしれない。
やっぱり愛情を確かめたいみたいなのが目的だったのか?
彼女はそれでいて、タイミング的に私の誕生日がやって来る時期になると、必ずこういう事をするか、何もないんだけど「しばらく距離を置きましょう」とか言って音信不通になる。
私の方は何度か、彼女に誕生日プレゼントを贈った。
一緒に行くはずだったライブをドタキャンされたり(チケットは二人分私持ち。結局、一緒にバンドをやっているドラマーさんが買い取ってくれた)、私のバンドのライブも、会場まで来て、煙草を買いに行く、と言ってそのままバックレられたり。(この時もノルマ分チケット一枚分を私が払ったのだ)
私が入院していた時期も音信不通になっていた時期だった。
そして、ある時、突然連絡が来たりする。
「今、大阪にいるの。東京にいるのが嫌になっちゃって、大阪の寮付きの仕事に行ったんだけど、仕事はきついし、人が合わない。悪いけど、そっちに荷物を送って、それから来てもいい?」
私は、最初、「うちは狭いから、すごく広い部屋に住んでいるN君に聞いてみるよ」と言ったが、彼女はそれには「え?」という感じのリアクションをした。
N君は「いつまでとか判っているんならいいけど、そうじゃないとねぇ…」と断った。
この件に関しては、一緒のバンドのドラマーさんからも「Sさんもずうずうしいけど、そんな事を無関係なN君に頼む幻さんもおかしいよ!」と怒られた。
結局、レンタルスペースを借りて、彼女と私の当面使わない荷物と季節外れの洋服を移し、狭いワンルームでの共同生活になった。
私は、人と一緒に住むのは無理と思っていたが、一緒に住んでみた感じは、意外と苦痛ではなかった。
彼女はあまりお喋りだったり、人に干渉するタイプではなかったからだろう。
話し合いではなく、なんとなく私が食事を作り、彼女が食器洗いと床掃除になった。
最初、全く仕事を探す気配がないので、当時私がやっていたピザ屋のチラシ配りのバイトを勧めてみた。
一緒に同じバイトをやる事になり、そこでは一緒に住んでいる事は隠していた。
彼女の免許証の住所は、大阪に引っ越す前の部屋のままだった。
仕事はやりだせば真面目にやる人だった。
大阪の寮は夜逃げして来たので(私は、給料日まで待って辞めたら、と言ったのだが、そうしたら絶対辞められなくなるというので)、最初はお金も無いんだろうな、と思って言わなかったが、彼女は食費も払わなかった。
家賃はいいよ、と私は言ったのだが、それ以外の生活費は折半して欲しいと思っていた。
レンタルスペース代は彼女が払っていたが、光熱費だってかかる。
食事の支度は私がするので、帰りに食材を買ってくるのも私だし、たまに一緒にスーパーに行っても、支払いになると彼女はすうっとレジから離れてしまう。
うちに来て最初に借りた1万円も返さないまま、ある時、お互い家に帰る前だったが「幻ちゃん家の住所ってこれでいいんだよね?」とメールで聞くので、「そうだけど、何に使うの?」と聞いたら、「お買いものですよ」と返ってきた。
「買い物をする前に借りたお金を返さないか?普通」と思って、次に一緒にスーパーに行った時、レジから離れようとする彼女に、「あのさぁ、もうちょっと払って欲しいんだけど」と言ったら、その時は半分払ってくれた。
だが、ちょっと悲しそうな不満そうな感じだった。
結局、その後も彼女は生活費を払い渋り、私は、「以前の3万だって、次の1万だって貸したままなんだけど」と言った。
そうしたら、彼女は「お金は返して、部屋は出て行く」と淡々と言った。
私は「お金が無いんだったらすぐ出て行かなくてもいいよ」と言った。「引っ越し費用とか色々掛かるから、充分溜まるまではいていいよ」
だが、彼女はすぐに引っ越し先を決めてきた。
私には分からなかった。
すぐに引っ越せる位なら、なんで食費や光熱費の折半位を嫌がるのか?
金額の問題ではなく、「私が養ってあげる」と言われる位大切にされる事を期待していたのか?
だが、私が甲斐性無しなのもあるが、私には元々、男が女を養うのは、女が子育てで働けない事情がある場合のみとしか思っていない。
私が逆の立場でも、子供もいないし、全ての家事をやるわけでもないのに、丸々相手に養ってもらうなどとは考えた事も無い。
そういう根深い違いが横たわっていそうなので、私は出て行くのを止めなかった。
今日の帰り、駐輪場の側で、彼女に似た人が、そのピザ屋のバイクで走って行くのを見た。
一瞬だったのでよく見えなかったが、たぶん彼女だろうと思うと、生活は大丈夫かな?と思った。
お水とか風俗でも働ける人だったら、そういう心配はしないんだけど。
(ちなみに、彼女は、年は私よりだいぶ若い)
性別違和があるのに、男として、地味な仕事をコツコツとやっている姿は、いたいけな感じさえしてしまう。
だが、もう振り回されるのはごめんだという気持ちとうらはらだ。