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狂人作家         黒田幻の日記

    心理学・精神分析に興味を持っていた社会不適応者。ついに自分自身が精神病になる。    幻覚・幻聴実体験記「狂気」絶賛発売中!

さるのこしかけ

 B型作業所に通っていた頃、区役所の分室の清掃をしていた。

 その清掃に向かう途中に空き地があり、切り株から円盤状の大きなキノコが生えていた。

 一緒に向かっていた人が言った。

 「あれは『さるのこしかけ』といってね、漢方薬局に売ると、何万円もの値段で売れるんだよ。私の知り合いが、生活に困っていた時、偶然見つけて漢方屋に持って行ったら、当分生活できたって。その知り合いが持って行ったのがこの位(手で円を描く)だと言っていたから、あれだけ大きければかなりの値で売れるはずだよ。」

 その空き地は柵で囲われていたので、たぶん誰かの敷地で、勝手に採っていったら泥棒になるだろうと思われた。

 何日か後も、清掃で通りがかる度に、気になって眺めていた。

 ある日、通りがかると、その切り株から、例の『さるのこしかけ』が折り取られ、無造作に地面に転がっていた。

 誰がやったのかは知らないが、このまま放置しておけばやがて腐ってしまう。

 私は職員に、帰り道に、あれを持って帰ってもいいかと訪ねた。

 職員は、自分はあまり賛成しないけれど、黒田さんの責任で家に持ち帰るんなら、としぶしぶ言った。

 そこで、清掃の帰り、その『さるのこしかけ』を作業所まで運んだ。

 作業所が閉まるまでまだ時間があり、やりたい人には内職のような仕事もあった。

 私は、作業所の閉まる時間まで内職をしたかったので、風通しの良い窓際に『さるのこしかけ』を置いて、なるべく乾燥させようと思った。

 すると、別の職員が来て、

 「胞子が飛んで、窓枠にキノコが生えたら困る」

と言って、すっぽりレジ袋で包んでしまった。

 家に持ち帰った後、最寄りの沿線に漢方屋がないか検索した。

 一軒だけあったので、後日そこへ持って行った。

 店主は渋い顔で

 「そもそもうちで仕入れているのは、仕入先が決まっていて、そこではとても清潔な環境で栽培している。そんな、どこに生えていたか得体のしれない物なんか買い取れない」

 と、言った。

 がっかりして出て行く私の背に、

 「他の所に持って行ったってダメですよ。売ったら薬事法違反になりますよ」

と、すかさず言った。

 また家に持ち帰って、さてどうしよう、と考えたが、どのくらい乾燥させれば使い物になるのかもわからないし、薬事法違反で捕まるのも嫌だったので、しばらくして捨ててしまった。

 まぁ、正直惜しいとは思った。

 自分でネットで売ったら、どの位の値で売れるのかと、しばらく考えていた。