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狂人作家         黒田幻の日記

    心理学・精神分析に興味を持っていた社会不適応者。ついに自分自身が精神病になる。    幻覚・幻聴実体験記「狂気」絶賛発売中!

未練なのか?

 今朝、お互い通勤途中で、以前付き合っていたSちゃんとばったり会った。

 付き合っていた、というのが、普通の人が想像する付き合いとはちょっと違っていたかもしれない。

 なにしろ、向こうはMTF(身体は♂、心は♀)寄りのMTX(身体は♂だが心は中性)で、私はFTX(身体は♀、心は中性)だ。

 

 Hは一回も無かった。

 お互い、身体に違和感のある同志のカップルはけっこう世の中にはいて、それでも、付き合っていたらH位あるのは普通だったりする。

 が、Sちゃんは、可愛いけど、手を出したらとんでもない事になるんじゃないかと、私の方が思っていたので、ずっと何も無かった。

 

 待ち合わせに2時間も遅れて来たり、弟が借金をしていると言って(それは問い詰めると限りなく嘘くさい話だった)お金をだまし取ろうとしてきたり、私の家に転がり込む事になっても、家賃は私の方からいいよと言ったのだが、食費すら払おうとしないわで、私はSちゃんの事を、正直言って信用できなかった。

 何を考えているのかよく分からなかったが、たぶん、Sちゃんは、自分は心は女なんだから、パートナーに養ってもらって当然とでも思っているのかな、という感じがした。

 

 私は全く社会に適応できない底辺なので、悪いが、養う事はできないし、なんだか、騙されそうな感じもしていたので、手を出さなかったのだ。

 

 が、Sちゃんが不思議なのは、そういう、相手を騙したり振り回したりする人がしそうな派手でお金をもらえそうな仕事や、楽に稼げそうな仕事には見向きもせず、地味でコツコツ系の仕事や、肉体労働系の仕事にばかり就くところだ。

 

 私は、Sちゃんには何度も騙されかかったり裏切られたり試されたりしたのだが、この点で、今でもやっぱり彼女(身体は♂でも、心は彼女寄りなので)をそんなに悪く思えないでいる。

 典型的な小悪魔、というより、清純可憐なイメージにさえ見えてしまう。

 だが、近づくと、やっぱり何を考えてるのか分からない人なのである。

 

 男の子の格好をしていると、本当に普通の男の子だが、女装すればパス度は決して低くないし、それなりに綺麗だった。

 なんで、ニューハーフとして働かないのか不思議だった。

 

 以前、彼女はブラックな運送屋に入ってしまい、社長から多額の賠償金を脅された事がある。

 その時、私は労働基準監督署に連れて行った。

 ありのままを話すと、明らかにあっちが違法なので、賠償金に関しては事なきを得たが、ただ働きした分の給与は、貰えなかった。

 その月の生活費に困らないかと聞くと、「3万円貸してくれれば大丈夫」というので貸した。

 次の仕事をどうしようかという話になって、「やっぱ水商売しかないのかなぁ」と嫌そうに言った。

 水商売に悪いイメージがあるのか、元々騒がしいのが好きでないから向いていないのか、とにかくそういう方面には行きたくないらしかった。

 

一つには、性指向が純男さん(自分が♂である事に違和感のない♂)ではなかったからかもしれない。

 

 過去の恋バナで出て来るのはFTMだったりするので、予測だが、身体的には相手の身体が完全な♂型であるより、不完全な♂、もしくは♀型である方が好ましいとか嫌悪感が少ないのかもしれない。

 でも、純女さん(♀である事に違和感のない♀)とは恋愛できない、と言っていたので、自分に男役を求められるのは無理だったのだろう。

 

 そうだとすると、みごとに私の逆パターンなので、基本的に相性は悪くなかったと言える。

 

 だが、彼女の変な行動には本当に辟易していた。

 

 付き合い始めの頃は、極端に約束の時刻を遅れて来りしていた。

 私は、自分が子供の頃遅刻常習犯だった事もあり、どうやっても遅れてしまう人には寛大だ。

 ちなみに、私は今では遅刻をしないように、早めに準備して早めに家を出るので、職場でも「早く来過ぎ」、待ち合わせの人にも「なんでそんなに早いんですか?」と言われる。

 ぴったりの時間に行こうとすると、必ず忘れ物で戻ったり、急にトイレに行きたくなったりしてしまうので、すごく早く来ざるを得ないのである。

 彼女もきっと、そうなんだろうと思って、一時間でも二時間でもボケーっと待っていた。

 そのうち、待っていても苦痛でない方法を編み出した。

 あらかじめ、待ち合わせを漫画喫茶のある所にするのだ。

 これなら、何時間でも苦にならない。

 彼女は、そうしたら、今度は時間通りに来るようになった。

 私を試していたのか?

 それとも、ドMで、怒られるのを期待していたのか?

 

 弟が借金をしていて、だから返済のために金をくれと言い出した時も、なんだか腑に落ちなかった。

 彼女自身が困っていて、というのなら出していたかもしれない。

 だが、この話には前振りがあるのだ。

 その数か月前、彼女の方から「旅行に行きたいね」と言い、そのうち、何度か行ったタイ料理の店で、「昔タイに行って良かったよ」「いいね、タイに行きたい!」という話になり、でもお金の面で、私はちょっときついな~と思っていた。

 で、調べてみると、以前私が行った時代とは違い、今は燃料サージャージというものもかかり、格安で見積もっても十数万円は掛かりそうだった。

 彼女にその話をして、そんなに掛かるんだったら、あきらめようという話になるかと思いきや、「その位だったらなんとかなる」と言うので、私は格安の旅行店を探し、どことどこへ行って、と彼女の希望を取り入れ、プランを練った。

 そうして、いよいよ二人とも戸籍抄本を取り寄せ、一緒にパスポートを取りに行こうという段になって、弟の借金の話が出た。

 毎月5万づつ返済していて、今までは彼女が立て替えていたが、もう払えない、あと2カ月で返済し終わるので、最後の2カ月分を私が払ってくれないか、と言うのだ。

 私は、なんか信じられなかった。

 弟が多額の借金をしていて、彼女が立て替えていたのだったら、そもそも旅行へ行きたいなどと言うだろうか?その時点で彼女の生活も苦しいはずである。

 しかも、あと2カ月で完済するという額が、ちょうどタイ旅行一人分に掛かる費用と同じ。

 どうしても、私がその位だったら出せる、と思ってその話をしてきた感が拭えなかった。

 私は「とにかく弟さんと話したい」「今は過払い金請求というのもできるから、そういう所に一緒に行くとかを相談したいから」と言うと、彼女はがっかりしたように「やっぱそういう方へ行くのか~」と言った。

 なんなんだろう、本当に困っているなら何らかの解決策が出れば嬉しいはずなのに。

 私が、ぽんと金を出すのを期待していたかのような。

 私は、とにかく弟さんと話をしたいから連絡先を教えろと言い張った。

 そうしたら、電話を切ってしまい、こちらから何度連絡しても拒否られた。

 こんな訳でしばらく音信不通になった。

 私は、この件についても不思議に思っていた。

 もっと悪質にだまし取ろうというのが目的だったら、あらかじめ弟役の人も用意しておくかもしれない。

 やっぱり愛情を確かめたいみたいなのが目的だったのか?

 

 彼女はそれでいて、タイミング的に私の誕生日がやって来る時期になると、必ずこういう事をするか、何もないんだけど「しばらく距離を置きましょう」とか言って音信不通になる。

 私の方は何度か、彼女に誕生日プレゼントを贈った。

 

 一緒に行くはずだったライブをドタキャンされたり(チケットは二人分私持ち。結局、一緒にバンドをやっているドラマーさんが買い取ってくれた)、私のバンドのライブも、会場まで来て、煙草を買いに行く、と言ってそのままバックレられたり。(この時もノルマ分チケット一枚分を私が払ったのだ)

 

 私が入院していた時期も音信不通になっていた時期だった。

 

 そして、ある時、突然連絡が来たりする。

 「今、大阪にいるの。東京にいるのが嫌になっちゃって、大阪の寮付きの仕事に行ったんだけど、仕事はきついし、人が合わない。悪いけど、そっちに荷物を送って、それから来てもいい?」

 私は、最初、「うちは狭いから、すごく広い部屋に住んでいるN君に聞いてみるよ」と言ったが、彼女はそれには「え?」という感じのリアクションをした。

 N君は「いつまでとか判っているんならいいけど、そうじゃないとねぇ…」と断った。

 この件に関しては、一緒のバンドのドラマーさんからも「Sさんもずうずうしいけど、そんな事を無関係なN君に頼む幻さんもおかしいよ!」と怒られた。

 結局、レンタルスペースを借りて、彼女と私の当面使わない荷物と季節外れの洋服を移し、狭いワンルームでの共同生活になった。

 

 私は、人と一緒に住むのは無理と思っていたが、一緒に住んでみた感じは、意外と苦痛ではなかった。

 彼女はあまりお喋りだったり、人に干渉するタイプではなかったからだろう。

 話し合いではなく、なんとなく私が食事を作り、彼女が食器洗いと床掃除になった。

 最初、全く仕事を探す気配がないので、当時私がやっていたピザ屋のチラシ配りのバイトを勧めてみた。

 一緒に同じバイトをやる事になり、そこでは一緒に住んでいる事は隠していた。

 彼女の免許証の住所は、大阪に引っ越す前の部屋のままだった。

 仕事はやりだせば真面目にやる人だった。

 大阪の寮は夜逃げして来たので(私は、給料日まで待って辞めたら、と言ったのだが、そうしたら絶対辞められなくなるというので)、最初はお金も無いんだろうな、と思って言わなかったが、彼女は食費も払わなかった。

 家賃はいいよ、と私は言ったのだが、それ以外の生活費は折半して欲しいと思っていた。

 レンタルスペース代は彼女が払っていたが、光熱費だってかかる。

 食事の支度は私がするので、帰りに食材を買ってくるのも私だし、たまに一緒にスーパーに行っても、支払いになると彼女はすうっとレジから離れてしまう。

 うちに来て最初に借りた1万円も返さないまま、ある時、お互い家に帰る前だったが「幻ちゃん家の住所ってこれでいいんだよね?」とメールで聞くので、「そうだけど、何に使うの?」と聞いたら、「お買いものですよ」と返ってきた。

 「買い物をする前に借りたお金を返さないか?普通」と思って、次に一緒にスーパーに行った時、レジから離れようとする彼女に、「あのさぁ、もうちょっと払って欲しいんだけど」と言ったら、その時は半分払ってくれた。

 だが、ちょっと悲しそうな不満そうな感じだった。

 

 結局、その後も彼女は生活費を払い渋り、私は、「以前の3万だって、次の1万だって貸したままなんだけど」と言った。

 そうしたら、彼女は「お金は返して、部屋は出て行く」と淡々と言った。

 私は「お金が無いんだったらすぐ出て行かなくてもいいよ」と言った。「引っ越し費用とか色々掛かるから、充分溜まるまではいていいよ」

 だが、彼女はすぐに引っ越し先を決めてきた。

 

 私には分からなかった。

 すぐに引っ越せる位なら、なんで食費や光熱費の折半位を嫌がるのか?

 金額の問題ではなく、「私が養ってあげる」と言われる位大切にされる事を期待していたのか?

 

 だが、私が甲斐性無しなのもあるが、私には元々、男が女を養うのは、女が子育てで働けない事情がある場合のみとしか思っていない。

 私が逆の立場でも、子供もいないし、全ての家事をやるわけでもないのに、丸々相手に養ってもらうなどとは考えた事も無い。

 

 そういう根深い違いが横たわっていそうなので、私は出て行くのを止めなかった。

 

 今日の帰り、駐輪場の側で、彼女に似た人が、そのピザ屋のバイクで走って行くのを見た。

 

一瞬だったのでよく見えなかったが、たぶん彼女だろうと思うと、生活は大丈夫かな?と思った。

 

 お水とか風俗でも働ける人だったら、そういう心配はしないんだけど。

(ちなみに、彼女は、年は私よりだいぶ若い)

 

 性別違和があるのに、男として、地味な仕事をコツコツとやっている姿は、いたいけな感じさえしてしまう。

 

 だが、もう振り回されるのはごめんだという気持ちとうらはらだ。