蓮澤一朗著「深淵へ」を読んで
職場の人が、社会人向けのシナリオライター養成学校(?)で一緒だったという、精神科医の人が書いた本を読んだ。
面白かった。
そして、著者も含め、ここに登場する医療従事者は基本的に暖かい人達ばかりだ。
だが、最後の話が怖かった。
生後9か月の娘を虐待死させて分裂病質人格障害と診断された女性の話で、怖かったのは、患者ではなく、話のオチの方だ。
希死念慮と無表情が回復してきた彼女に、著者が
「…そろそろ子どもさん、欲しいですか」
と聞き、彼女が
「はい」
と答える。そこで治療が完成してめでたしめでたしみたいな終わり方なのである。
なんで、また同じ事になるかもしれないのに、子供を産めとか言うんだろう?
あり得ない、と思った。
自らが女性であることが嫌でたまらない故、子供を持ったら虐待してしまうのではないかと恐れて全く産むという選択肢が考えられなかった私と、実際に産んでから虐待してしまう女性の心理は違うのかもしれないが、このオチは本当に怖かった。
この著者はいい人なのだが、この本のトーンは全体的に、バリバリのシスジェンダーの男、という感じがする。
私は、そこに、なにか自分には馴染めないものを感じてしまう。
自らの男性性になんの疑問も持たない故の、女性は本来、子供を持つ事を望むもの、と信じて揺るがない信念が、私には恐ろしいのだ。
子供を虐待死させてしまうという、究極にあってはならない経験を経て、なおも女性性を求められる、私だったら耐えられないと思う。